木は森に隠せ

自分の考えをアウトプットする。

動的平衡を読んで

友人に勧められ、福岡伸一氏の著した動的平衡を読んだ。

福岡伸一氏の書籍は、過去に「生物と無生物のあいだ」を読んだことがあり、今回の読書は氏の本では二冊目となった。

 

比較的ライトの書き出しであり、ダイエット食に関する考察あたりなど、新書にありがちな表面的な書籍かと思いきや、第5章の生命は時計仕掛けか?というあたりから、いわゆる生物学の専門的な内容へ深く入っていくように感じた。

ES細胞、iPS細胞の解説に関しても、山中伸弥教授がノーベル生理学・医学賞を受賞したこともあり、ワードとしては比較的耳馴染みがあるが、その内容をわかりやすく解説しているという点でも一読の価値はあると考えられる。

序盤のアカデミア v.s. ビジネスの部分は、正直言って伏線が最後まで回収されないように感じる部分もあり、本全体としては多少論点が分散しているような感じもする一方で、著者の感じていること、考えていることをより広く拡散するという点では良いのかもしれない。

最後のベルクソンの弧モデルの提起に関しては、正直いって意味不明であった。これは物理的解釈が難解であるという意味ではない。

動的平衡を、坂を登る円で表現する事自体が、比喩として、もしくは単純化したモデルとして中途半端ではないかと考えるからである。

動的平衡というのは、通常であれば増大してしまうエントロピーを、サステイナブルなシステムによって流れながらも一定の平衡状態を保つものであるとされている。しかしながら、坂を登る円のモデルは、物理的モデルとしても、文学的比喩としても、いわゆる平衡状態を意味するのではなく、むしろ円という系に着目すると、エントロピー減少をイメージさせるのではないかと感じる。

イメージとしてはむしろ、一定の箇所にとどまる、という方が動的平衡に近いのではないであろうか。

氏も物理的モデルに関しては現在研究中とのことで、私が素直に感じた違和感が、果たして的を射ているのか否か、今後が楽しみである。